揮発性有機化合物(VOC)などを検知するナノスケール分子センサ

ヒトの呼気には様々な揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds: VOC)が含まれています。低分子の代謝物も呼気に含まれるため,呼気中の特定のVOCを選択的に検出できれば,疾病の超早期診断を実現することができるかもしれません。

ナノデバイスの熱配慮設計

LSIはその構成要素であるMOSトランジスタのサイズ縮小によってこれまで飛躍的に性能を向上してきました。しかし,近年の極度に微細化されたトランジスタでは様々な新たな問題が顕在化しており,単純なサイズ縮小だけではLSI性能の向上が難しくなってきています。このような新たな問題のなかでも,トランジスタ動作中のジュール発熱による素子の温度上昇が最も深刻な問題のひとつとして指摘されています。素子の温度が高くなりすぎると,LSIが正しく動作しなくなり信頼性が低下するだけでなく,消費電力も増大してしまうため,将来の電子デバイスにおいては発熱に配慮した素子設計が強く望まれています。

AIST_SOIMOSFET微細トランジスタで温度上昇が顕著になるのは,ナノスケール半導体で熱伝導率が著しく劣化することに起因することが近年明らかになってきました。このように,先端トランジスタに代表されるナノスケールの電子デバイスでは,従来取り組まれてきた電気的な特性に加えて,ナノデバイス・ナノ半導体の熱的な特性も理解することが非常に重要になります。内田研では,(a)ナノデバイスの動作温度測定や(b)先端構造トランジスタの電気・熱特性の理論計算による予測,(c)ナノ半導体の熱物性の解明などを通して,将来の電子デバイス設計の指針を示すことを目指しています。

右上図は,先端トランジスタの一種である,SOI (Silicon-On-Insulator)トランジスタの断面写真です。このようなナノデバイス(右上図では特徴的なサイズが50nm程度)では,発熱部分が通常用いられる温度計よりも遙かに小さいため,一般的な手法でトランジスタ動作中の温度を測定することはできません。右下図はナノサイズの温度計をトランジスタのゲート電極部分に用いることで,トランジスタ動作中の温度を測定した結果です。従来の構造(黒三角)では,動作中の温度が100℃以上も上昇しているのに対し,提案する構造(赤三角)では温度上昇が半分以下にできることを実証しました。このように,デバイス内部で起こる物理現象を深く理解し,CMOSデバイス物理の研究で培った経験や手法を活かし,シリコントランジスタに限らず,原子層材料も含めた様々なナノデバイスの熱特性評価に取り組んでいます。

 

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左図は将来導入される先端ナノスケールトランジスタ構造における,動作中の素子内部温度分布を3次元電気・熱錬成シミュレーションによって計算したものです。従来構造(a)に比べ,(b)では動作温度の低減が期待されます。実験で得られた素子やナノ半導体の熱物性に基づき,素子や回路特性を予測するために理論計算も駆使しています。このように,実験・計算両面の観点から将来のナノデバイスの熱特性予測や性能を向上するための素子設計に取り組んでいます。

 

CMOSデバイス物理

LSIの高性能化は,トランジスタのサイズをただ小さくするだけでは実現できません。小さくすることによるメリットを享受するためには,小さくする ことによるデメリットを克服する必要があります。メリットとデメリットのトレードオフを解決し,最高性能のトランジスタを実現することは,工学(Engineering)を学び・適用するリアルな場になっています。

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また,トランジスタのサイズが20nm程度まで小さくなっている昨今,トランジスタを小さくすることによって顕在化する量子効果を正確に把握し,上手く利用することは不可欠です。CMOS分野はテクノロジーの最先端サイエンスとしての抜群の面白さが融合された希有な分野だと考えています。産 業としての世界的な重要さも未だ失われておらず,それゆえの競争の厳しさもありますが,研究開発・市場動向などにダイナミズムがあり,大変面白く大学でも 積極的に取り組むべき分野と考えます。CMOSデバイスの研究(特にキャリア輸送の研究)は,企業からの受託研究,文科省の科研費,科学技術振興機構 からの受託研究などを受けて進めています。

右図は7T(テスラ)という強磁場下かつ2K(ケルビン)という低温で測定したMOSトランジスタの電流-電圧特性です。MOSトランジスタ内部の 量子構造を反映した電流振動特性(Shubnikov-de-Haas振動)が観測されています。このような振動特性を詳細に解析することで,トランジス タ内部の量子効果を様々な条件下で調べ,より性能の高いトランジスタを実現するための方針を導き出す研究も行っています。

 

歪み技術

トランジスタはそのサイズを小さくすることで性能向上を図ってきました。ところが,ゲート長*1が 50nmに近づく頃から,単純にトランジスタのサイズを小さくするだけでは,これまでのような高性能化を達成することは大変困難になっています。そのた め,トランジスタのチャネル部近傍を局所的にひずませる(引っ張ったり,縮めたりする)ことで,性能向上を達成する技術が実用化されています。

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このような歪み(ひずみ)は,トランジスタに1GPa程度あるいはそれ以上の極めて強い応力を局所的に与えることで実現しています。今後さらに高い 性能のトランジスタを実現するためには,トランジスタに与える応力をさらに強くして,より大きな歪みを生むことが必要になります。ただ,このように強い応 力を与えた時に,トランジスタ内部で何が起こるのか(起こっているのか)は実際にはまだ十分に理解されていません。トランジスタ内部で起こる現象を理解 し,将来トランジスタの進むべき方向を提案し続けることを目指します。

左図は無歪みの場合の正孔基底バンドの等エネルギー面です。歪みのある場合,歪みの無い場合について等エネルギー面を計算。計算に基づき,トランジ スタ特性を説明する物理モデルを構築。打ち立てた物理モデルの妥当性を実験的に検証。検証結果が思わしく無い場合には,物理モデルや計算手法の修正・再検 討,そして再実験というようなサイクルを繰り返すことで,デバイス動作の物理的な理解を目指します。

 

ナノスケールトランジスタにおける量子効果

現在,研究・開発レベルでは,ゲート長が10nm程度のトランジスタの実現を目指しています。このように小さなトランジスタでは,これまで無視でき た量子力学的な効果が重要になってきます。前述の歪み効果を含めて,最先端トランジスタの動作理解に量子力学の知識は必須です。

ただし,トランジスタの動作特性に,どのような量子効果がどの部分にどの程度の影響を与えるのかは自明ではありません。これまでチャネル部における量子効果については,我々を含めて多くのグループが取り組んできました。現在,内田研では(a)ドナー不純物やアクセプター不純物への量子力学的効果とそのトランジスタ特性への影響,(b) (110)面をチャネル面とするトランジスタにおける量子効果,(c)ナノスケールトランジスタにおけるキャリア(電子・正孔)の非平衡輸送について精力的に取り組んでいます。

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左図は,研究室で作製した超薄膜の単結晶シリコンです。厚さが5nm以下と極めて薄く,絶縁障壁の非常に高い絶縁膜(シリコンの酸化膜)で挟まれています。量子力学的な効果が室温でも顕在化し,量子効果のトランジスタへの影響を調べる格好の場を提供してくれます。

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